「うちの子、英語はけっこう話せるんです」
オンライン英会話の先生と楽しそうにやりとりしたり、英語の動画で覚えたフレーズを自然に口にしたり。そんな姿を見ると、親としては嬉しくなりますよね。
ところが、英語の絵本を渡してみると、文字はほとんど読めない。
「あれだけ話せるのに、どうして読めないのだろう」
「このまま会話を続けていれば、いつか自然に読めるようになるのかな」
そんな疑問をもつ方もいると思います。
大学英語講師はむ先生英語講師の「はむ先生(村上里実)」です。教歴は15年、大学で非常勤講師を務め、第二言語習得を専門としています。
結論から言うと、英語が話せるけれど読めないのは、ことばが自然な順序で育っている証拠です。
今の時点では、心配する必要はありません。
ただし、会話だけを続けていても、その先の英語力が自動的に育つわけではありません。
英語で知識を得たり、自分の考えを深めたりする力へ進むためには、どこかで「読む」段階へ移る必要があります。
この記事では、英語が話せる子が文字を読めない理由と、会話の先に読む力が必要になる理由、そして読み始めの時期を親子で乗り越える方法をお伝えします。
「英語が話せる」の中身を少しだけ見てみよう

幼い子どもが英語を口にすると、まずは「すごい」と感じるものです。
私も母として息子のおうち英語を続けてきたので、その気持ちはよく分かります。
これまで英語を聞かせたり、レッスンを続けたりしてきた時間が、子どもの口からことばになって出てくる。これは、おうち英語の成果を実感できる嬉しい瞬間です。
その一方で、幼児期の「英語が話せる」は、大人が考える「英語が話せる」とは少し中身が異なります。
子どもの発話には、耳から丸ごと覚えた表現が多く含まれています。
たとえば、
“Can I have this?”
“I did it!”
“Let’s play together.”
といった表現です。
こうしたことばが場面に合った形で自然に出てくるのは、とても大切な成長です。ただし、覚えた表現をまとまりのまま使う段階と、単語や文法を自分で組み合わせて新しい文を作る段階は、まったく同じではありません。
英会話レッスンでも、先生からいつも聞かれる質問には答えられるけれど、少し聞き方が変わると答えられない、ということがあります。
また、幼い子どもの会話は「いま、ここ」にある状況に支えられています。
目の前にある物を指さしたり、表情や身ぶりを使ったりできます。相手の先生や大人も、子どもの言いたいことを文脈からくみ取ってくれます。
そのため、実際にもっている英語力以上に、会話がとても流暢に見えることもあります。
だからといって、子どもの英語を低く評価する必要はありません。
大切なのは、「話せるようになったから、もう大丈夫」と立ち止まらないことです。
今の成長をしっかり喜びながら、その先にどのような英語力を育てていくのかを考えていきましょう。
話せるのに読めないのは、むしろ自然な順序

「英語は話せるのに文字が読めないなんて、力が偏っているのでは」
そう心配する方もいるかもしれません。
しかし、話せるのに読めない状態は、特別なことではありません。
ことばは基本的に、
聞いて分かる→話す→読む→書く
という順序で育っていきます。
日本語を考えると分かりやすいでしょう。
子どもは、生まれてから周囲の日本語をたくさん聞きます。少しずつことばを話すようになり、会話ができるようになってから、ひらがなを読み始めます。
現役英語講師はむ先生日本語と同じ順序ですね!
3歳の子が流暢に日本語を話していても、文字が読めないことを心配する人はいません。
英語でも、同じことが起きているだけです。
学校で英語を学んだ私たち大人は、文字や文法から英語を学んできた人が多いため、「読めるけれど話せない」という状態になりやすい傾向があります。
おうち英語で育っている子ども(幼い頃から英語に触れてきた子ども)は、その逆です。
まず英語の音を聞き、意味を理解し、ことばを口にする。そのあとで、耳の中にある英語と文字を結びつけていきます。
話せるのに読めないのは、遅れているからではありません。
ことばが自然な順序で育ち、次の段階の入り口まで来ているサインだと考えてください。
ただし、日常会話だけでは英語力に天井がある

話せるのに読めない状態は、今の段階では問題ありません。
ただし、ここで一つ知っておきたいことがあります。
それは、日常会話を続けるだけでは、英語力があるところで伸びにくくなるということです。
本人の才能や努力の問題ではありません。日常会話で使われることばの範囲が限られているためです。
たとえば、
“How was your day?”
“It was fun!”
“What do you want to eat?”
“I want pizza.”
といったやりとりは、家庭や英会話レッスンでもよく使われます。
こうした身近な会話を繰り返すことで、生活に必要な英語は身についていきます。
しかし、日常会話だけでは、物事を詳しく説明することばや、目に見えないことについて考えるためのことばには、なかなか出会えません。
- 理由を説明する
- 二つの考えを比べる
- 出来事の原因を考える
- 自分の意見を順序立てて伝える
こうした場面では、日常会話とは異なる語彙や表現が必要になります。
ことばの研究でも、生活の中でのやりとりに必要な言語能力(BICS)と、学習や思考を支える言語能力(CALP)は、分けて考えられています。
前者は日常会話で使うことばの力、後者は授業を理解したり、自分の考えを整理したりするためのことばの力です。
英語で楽しく会話できる力は、もちろん大切です。
一方で、将来、英語で本を読んだり、学んだり、自分の考えを伝えたりするためには、会話の外にあることばにも触れていかなければなりません。
ここに、会話だけを続けることの限界があります。
会話の先にあることばは、本の中にある

では、学びや思考を支えることばには、どこで出会えるのでしょうか。
その大きな入り口になるのが、本です。
書きことばには、普段の会話ではあまり使われない語彙や表現がたくさん含まれています。
会話なら big で済ませる場面でも、本の中では huge や enormous ということばに出会います。
物語には、登場人物の気持ちや場面を細かく描く表現があります。
図鑑やノンフィクションには、物事の仕組みや特徴を正確に説明することばがあります。
さらに文章を読むことで、「なぜなら」「一方で」「その結果」といった、考えをつなぐ方法も身につきます。
これは、英語だけに限った話ではありません。
日本語でも、本をよく読む子は、会話だけでは出会いにくい語彙や表現を知っています。
自分の気持ちや考えを、より細かく説明できるようになります。
母語でも外国語でも、会話の先にあることばの世界を広げてくれるのが、読む経験です。
だからこそ、英語が話せるようになった子どもの次の一歩として、少しずつ文字に触れる時間をつくっていきたいのです。
「頑張らないと読めない」時期は誰にでもある

とはいえ、読み始めからすらすら読める子はいません。
日本語でも、ひらがなを一文字ずつ拾いながら読んでいた時期があったと思います。
「頑張らないと読めない」
「ゆっくりなら、なんとか読める」
英語でも、同じ時期が必ずあります。
読み始めの子どもは、文字を見て音に変えることに、頭の力の多くを使っています。
たとえば、cat という文字を見て、c・a・tの音をつなげ、知っている「cat」ということばに結びつける。
この作業を一つひとつ行っています。
そのため、文字を読むだけで疲れてしまい、物語の内容まで楽しむ余裕が残らないことがあります。
この時期に難しい本を渡してしまうと、子どもにとって読書は「分からない」「疲れる」「やりたくない」ものになってしまいます。
しかし、文字と音を結びつける作業は、練習によって少しずつ自動化されていきます。
最初は一文字ずつ読んでいた日本語の絵本を、いつの間にか文のまとまりで読めるようになったように、英語でも同じ変化が起こります。
そして、英語をすでに聞いて理解できる子には、大きな強みがあります。
読む力は、大きく考えると、
- 文字を音に変える力×英語を聞いて理解する力
の組み合わせで成り立っています。
話せる子どもは、後半の「聞いて理解する力」をすでにもっています。
つまり、まったく知らない英語をゼロから覚えるのではありません。
耳で知っていることばに、文字という新しい情報を結びつけていく作業です。
文字と音の関係が分かるようになると、耳の中にたまっていた英語が、次々と読めることばに変わっていくことがあります。
英語が話せる子どもには、読めるようになるための土台が、すでに育っているのです。
読み始めは「簡単すぎる本」でちょうどいい

読み始めの時期を乗り越えるために大切なのは、難しい本を頑張って読ませることではありません。
むしろ、今の子どもには簡単すぎるように感じる本から始めることが大切です。
- 一文が短い。
- 同じ表現が繰り返される。
- 絵を見れば意味が分かる。
- 音声がついている。
このような本が、読み始めには向いています。
さらに、次のような方法を意識してみてください。
- 音声を聞きながら文字を目で追う
- 親子で一緒に読む
- 一日10分程度の短い時間にする
- 読めたかどうかをテストしない
- 分からない単語をすべて覚えさせようとしない
大切なのは、「読めた」「分かった」「この本は楽しい」という経験を積み重ねることです。
読み始めの時期に必要なのは、評価ではありません。
子どもが文字の世界に入っていくための、少しの手助けです。
難しい本を一冊読むよりも、簡単な本を何冊も楽しく読んだほうが、文字と音を結びつける経験は増えていきます。
具体的な本の選び方や進め方については、多読の記事でも詳しく紹介しています。
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アプリをつかってみる ▷ 使い方を見る ≫読む力は、話す力の上限も引き上げる

「読む練習を始めると、せっかく身につけた会話力が落ちてしまうのでは」
そう心配する方もいるかもしれません。
しかし、読むことと話すことは、どちらか一方を選ぶものではありません。
本の中で出会った語彙や表現は、子どもが話すときの材料になります。
恐竜の本を読んだ子は、恐竜の特徴や生態について英語で話し始めます。
物語を読んだ子は、登場人物がなぜそのような行動をしたのか、自分の考えを説明しようとします。
宇宙の本を読めば、英会話の先生との話題も、好きな食べ物や今日の出来事だけではなくなります。
読む内容が広がれば、話せる内容も広がっていくのです。
日常会話だけを続けていると、話題も使うことばも、どうしても似たものになりがちです。
本から新しい知識やことばを取り込むことで、子どもの会話には少しずつ中身が加わっていきます。
読む力は、話す力と競い合うものではありません。
英語で何を話せるか、どこまで考えられるかという、話す力の上限を引き上げてくれるものです。
「英語が話せる」を、その先の「英語で考え、学び、伝えられる」へつなげるために、読む力が必要なのです。
まとめ|「すごいね」の先に、読む世界をつくろう

子どもが英語を話している姿は、素直にすごいことです。
たくさん英語を聞き、ことばの意味を理解し、自分の口から英語を出せるようになった。
それは、おうち英語で積み重ねてきた時間が、きちんと力になっている証拠です。
話せるのに読めないからといって、焦る必要はありません。
今は、ことばの自然な発達の中で、次の入り口に立っている時期です。
一方で、「話せるから、このまま会話だけで大丈夫」と考えるのではなく、少しずつ文字の世界へ橋をかけていきましょう。
最初から難しい本を読む必要はありません。
簡単すぎるくらいの本を使い、音声の力も借りながら、短い時間で楽しく続けていけば十分です。
頑張れば読める時期を越えると、子どもは本を通して、会話の中だけでは出会えなかったことばや知識に触れられるようになります。
そして、その読む経験が、話す力もさらに豊かにしてくれます。
「英語が話せる」の次は、「英語で世界を広げられる」へ。
焦らず、簡単な一冊から始めていきましょう。

