「0歳から英語を聞かせて、意味があるのでしょうか」
よくいただく質問です。
「意味がある」と断言する情報と、「意味がない」と切り捨てる情報の両方が出回っているので、迷われるのも当然だと思います。
大学英語講師はむ先生英語講師の「はむ先生(村上里実)」です。教歴は15年、大学で非常勤講師を務め、第二言語習得を専門としています。
先に、この記事の結論をお伝えします。
研究で分かっていることはあります。同時に、分かっていないこともあります。
その境目を知ったうえで、ご家庭ごとに判断するのが一番よい、というのが私の考えです。
この記事では、
・0歳の英語に関わる主要な研究を4つ紹介
・それぞれについて「研究で分かっていること」「そこから私が考えたこと」「だから我が家はこうした」
の順で書いていきます。
我が家が実際に0歳で何をしていたか(絵本と歌の具体的なやり方)は、こちらにまとめています。
0歳に英語は意味ない?研究をどう読んで、我が家はどう関わったか

我が家で実践してきた0歳のやり方にはには、根拠にしている研究があります。
ただ、研究が「こうしなさい」と教えてくれるわけではありません。
分かっているのは限られた範囲のことで、そこから先は自分で推論して、家庭の形に落とすことになります。
なので、この順番で書いていきます。
- 研究で分かっていること
- そこから私が考えたこと
- だから我が家はこうした
先にお断りしておくと、当時、これらの論文を一つずつ確認して決めたわけではありません。
授業や研究の中で聞きかじってきたことの感覚で「これならいいかな」と決めていました。
この記事を書くにあたって改めて調べ直したところ、当時の判断と研究が一致していた、というのが正直なところです。
同じ研究を読んでも、別の結論を出すご家庭があって当然です。
判断の材料として読んでいただければと思います。
①赤ちゃんが聞き分けられる音は、1歳までに絞られていく

研究で分かっていること
英語環境で育つ乳児を対象にした、よく知られた研究があります(Werker & Tees, 1984)。生後6〜8か月の時期には、英語では使われないヒンディー語の子音の違いを聞き分けられていたのに、10〜12か月になるとほとんどの子が聞き分けられなくなっていました。
つまり0歳の1年間に、その子の言語に必要な音の区別へと、聞こえ方が組み替えられていきます。
ただし正確に言えば、聞き分ける力が完全に失われるのではなく、必要なものへ再編されると考えられています。潜在的な感受性は残るという報告もあります(Werker & Tees, 2005)。
そこから私が考えたこと
0歳は、英語力を伸ばす時期ではなく、残るものが決まる時期なのだと考えました。
だとすれば、この1年で狙うべきは1つだけです。英語の音を、聞いたことのある音として残しておく。あとから聞き分けを育て直すより、負担が小さいはずだと考えました。
だから我が家はこうした
0歳の目標を「音を残すこと」だけに絞りました。
話せるようにする、単語を覚えさせる、といったことは目標から外しました。目標が小さいので、1日3曲で足ります。足りていると自分で判断できていたので、焦らずに済みました。
②録音を聞かせるだけでは、効果が確認されなかった

研究で分かっていること
生後9か月のアメリカの乳児(英語環境)に、中国語に触れてもらう実験が行われました(Kuhl, Tsao, & Liu, 2003)。全12回、合計5時間ほどという短い期間です。
結果は、条件によってはっきり分かれました。
| 触れ方 | 結果 |
|---|---|
| 生身の中国語話者とやり取りした | 中国語の音を聞き分けられるように(本来なら低下していく時期に、低下が反転した) |
| 同じ内容をDVDで見た | 効果が確認されなかった |
| 同じ内容を音声だけで聞いた | 効果が確認されなかった |
同じ人、同じ教材内容でも、画面や音声からでは同じ結果になりませんでした。
そこから私が考えたこと
音を届けるだけでは足りない、と考えました。
同時に、心強い点もありました。効果が見られたのは合計5時間ほどの短い介入です。0歳のうちに長時間を確保しなくてもよさそうだ、と判断できました。
だから我が家はこうした
かけ流しを主役にしませんでした。
代わりに、「必ず私が一緒にいて関わる時間」として英語の時間を作りました。
歌なら一緒に歌って踊る。絵本なら隣で一緒に見る。5分でも、そういう時間にする。長さより、一緒にいるかどうかを条件にしました。
③決め手は「生身かどうか」ではなく「応じてくれるかどうか」

研究で分かっていること
②は「録画や音声ではだめ」という話として紹介されることが多いのですが、その後の研究で、もう少し細かいことが分かってきています。
2歳前後の子どもに、新しい動詞を教えた研究です(Roseberry, Hirsh-Pasek, & Golinkoff, 2014)。
条件は3つでした。
| 触れ方 | 結果 |
|---|---|
| 対面で教わった | 覚えた |
| ビデオ通話で教わった(画面越しだが、その場で応じてもらえる) | 覚えた |
| 録画された同じ映像を見た | 覚えなかった |
画面越しであっても、自分の反応に応じてくれる相手なら学べていました。
そこから私が考えたこと
必要なのは「人がその場に生身でいること」そのものではなく、自分がしたことに応じてくれるやり取りがあることなのだと考えました。
だとすれば、役割を分けられます。英語の音はネイティブ音源が担い、応じる役は親が担う。この分担でも条件は満たせるはずです。
だから我が家はこうした
自分の発音を頑張るのをやめました。
その代わり、応じることに徹しました。息子が見ているページを一緒に見る。指をさしたらそこを見る。「かわいいねー」と言う。
英語を教えようとするのではなく、反応する役に回りました。
④二つの言語を聞くこと自体は、ことばの遅れを招かない

研究で分かっていること
複数の言語に触れること自体が、子どもを混乱させたり、ことばの発達を遅らせたりするわけではありません。ここは広く一致しているところです。
二言語で育つ子と一言語で育つ子を比べた研究では、二つの言語の語彙を合わせて数えると差がありませんでした(Hoff et al., 2012)。一方で、それぞれの言語の語彙や文法は、その言語にどれだけ触れているかの割合と関係していました。
つまり、ことばを学ぶ力そのものが落ちるわけではなく、それぞれの言語の育ち方が、触れる量に応じて決まるということです。
そこから私が考えたこと
英語を聞かせることを怖がる必要はない。ただし、赤ちゃんが起きている時間には限りがあるので、英語を増やせば日本語が減るという関係は避けられません。
日本で生活し、日本語で学校教育を受ける前提なら、日本語を土台にした方がよいと考えました。
だから我が家はこうした
日本語と英語の割合を、9対1くらいで意識していました。
絵本の時間は、寝る前(0歳のうちは朝寝・昼寝・夜で1日2〜3回)にそれぞれ日本語2冊・英語1冊。これは英語のためではなく、日本語の語彙を増やすためにやっていた時間です。
話しかけるのは日本語のみと決めていました。
0歳の英語の意味|それでも、分かっていないことも多くあります

ここまで推論を重ねてきましたが、確かめられていないことも書いておきます。
1. 「日本語を話す親+ネイティブ音源」という組み合わせは、直接検証されていません
②で効果が出たのは、生身の外国語話者とやり取りした場合です。日本語で話しかける親が隣にいて、英語は音源から流れている——という我が家のような形は、そのまま試された条件ではありません。③からの推論として、条件は満たせるはずだと考えているだけです。
2. 0歳で保たれた聞き分けが、何年も残るのかは分かっていません
②の研究では、介入の直後に測定が行われています。そこで保たれた聞き分けが、幼児期や小学生になっても残るのかは、確認されていません。
3. 日本のような環境で、早く始めたこと自体が長期的な差になるかは一致していません
英語に触れる量が限られる環境では、開始年齢の早さよりも、触れる量と質、そして続いた年数の方が結果に効いてくると考えられています。
0歳から始めたから英語が身に付く、という単純な話ではありません。「早く始めさえすればよいわけではない」というのは、こういう意味です。
それでも、こう考えている理由
上の1について、もう少し書いておきます。
私は、音源が生身の人間でなくても、親御さんが上手く関わることで、子どもはその英語を「自分が生きていくのに必要な言葉」として受け取るのではないかと考えています。
一つは③からの推論です。
決め手が随伴性であるなら、音源と親の役割分担でも成り立つはずです。
もう一つは、実際にそうなっている家庭を見てきたからです。
息子もそうですし、おうち英語を続けているご家庭のお子さんたちもそうです。
日本のように英語に触れる機会が限られた環境で、それでも英語が身に付いていく子がいる。
音源からの英語が「自分に関係のある言葉」として処理されていないと、この説明がつきません。
ただし、これはあくまで私の見立てです。検証されたものではありません。
それから、音源だけで完結するという意味でもありません。
我が家も4歳からはオンライン英会話で、生身の相手と英語を使う時間を持ちました。
0歳から3歳頃までは音源と親の関わりで土台を作り、その先で英語を使う機会を用意する。
この二段構えが必要だと考えています。
現役英語講師はむ先生断言はできません。私自身、0歳のときは「意味があるかもしれない」と思いながら過ごしていました。
この章で参照した文献
- Werker, J. F., & Tees, R. C. (1984). Cross-language speech perception: Evidence for perceptual reorganization during the first year of life. Infant Behavior and Development, 7(1), 49–63.
- Werker, J. F., & Tees, R. C. (2005). Speech perception as a window for understanding plasticity and commitment in language systems of the brain. Developmental Psychobiology, 46(3), 233–251.
- Kuhl, P. K., Tsao, F.-M., & Liu, H.-M. (2003). Foreign-language experience in infancy: Effects of short-term exposure and social interaction on phonetic learning. Proceedings of the National Academy of Sciences, 100(15), 9096–9101.
- Roseberry, S., Hirsh-Pasek, K., & Golinkoff, R. M. (2014). Skype me! Socially contingent interactions help toddlers learn language. Child Development, 85(3), 956–970.
- Hoff, E., Core, C., Place, S., Rumiche, R., Señor, M., & Parra, M. (2012). Dual language exposure and early bilingual development. Journal of Child Language, 39(1), 1–27.
まとめ|0歳への英語の意味「分かっている範囲」で決めて、あとは楽しむ

4つの研究と、我が家の判断をまとめます。
| 研究で分かっていること | 我が家の判断 |
|---|---|
| 聞き分けられる音は1歳までに絞られていく | 0歳の目標は「音を残す」ことだけに |
| 録音を流すだけでは効果が確認されなかった | かけ流しを主役にせず、必ず親が一緒にいる時間に |
| 決め手は「応じてくれるかどうか」 | 音はネイティブ音源に、応じる役は親に分担 |
| 二言語自体は遅れを招かない。育ちは触れる量に応じる | 日本語9対1。絵本は日本語中心に |
そして、直接検証されていないこと(親+音源という組み合わせ、効果の持続、開始年齢の長期的な影響)は、分かっていないままです。
だから私は、外れても手元に何かが残る形を選びました。
一緒に歌って笑う5分。
効果がどうであれ、その時間は残ります。
研究は、正解を教えてくれません。でも、リスクを小さくする方法は教えてくれます。
大学英語講師はむ先生「意味があるかもしれない」で始めて大丈夫です。私もそうでした。
具体的に0歳で何をするか(絵本のめくり方、歌の遊び方、続く仕組みの作り方)は、実践編にまとめています。
ご家庭に合った進め方を一緒に考えることもできます。

