オンライン英会話で先生と楽しくやりとりできる。
英語のアニメや動画も、字幕なしで理解している。
そんなお子さんの姿を見ると、「うちの子、英語は大丈夫そう」と感じますよね。
けれども実は、「英語で会話ができる」と「英語で学べる」の間には、大きな差があります。
大学英語講師はむ先生英語講師の「はむ先生(村上里実)」です。教歴は15年、大学で非常勤講師を務め、第二言語習得を専門としています。
そしてこの段差は、日本の教育現場で「9歳の壁」と呼ばれているものと、同じ構造をしています。
乗り越えるカギは、本を読む能力を高めること「読書」です。
この記事では、
- 日本語の「9歳の壁」と、英語にもある同じ壁の話
- 会話レベルの先にあるアカデミックな英語力が、読書でしか育たない理由
- 英会話の土台がある子・まだない子、それぞれの進み方
についてお話しします。
「9歳の壁」とは?日本語と英語で起きていること

「9歳の壁」「小4の壁」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
小学3、4年生になると、学習内容が大きく変わります。
低学年までの学習は、目の前の具体物や身近な生活と結びついていました。
ところがこの時期から、抽象的な概念——分数や割合、目に見えない仕組み、登場人物の心情の変化——を、言葉だけを頼りに理解する学習が始まります。
ここでつまずく子が増える現象が、「9歳の壁」と呼ばれるものです。
日常会話は問題なくできるのに、教科書の文章が頭に入らない。
おしゃべりは達者なのに、説明文を読むと止まってしまう。
つまりこの壁の正体は、「話し言葉の力」と「学ぶための言葉の力」が別物であることにあります。
そして、この壁を乗り越える力を支えるのが読書量だということは、国語教育の世界で広く共有されている認識です。
日常会話には出てこない言葉、抽象的な概念を表す言葉に出会える場所は、本の中だからです。
同じ壁が、英語にもある
第二言語習得(SLA)の研究には、この現象をそのまま説明する有名な枠組みがあります。
言語学者のジム・カミンズは、言語の力を2つに分けました。
1つは、日常会話をこなす力(BICS:生活言語能力)。
もう1つは、学習や思考の道具として言葉を使う力(CALP:学習言語能力)です。
研究によれば、日常会話の英語は2年程度で身につくのに対し、学習言語としての英語が育つには5〜7年かかるとされています。
日常会話が比較的早く身につくのは、場面や表情、文脈という助けがあるからです。
一方、教科書や本の英語にはその助けがなく、言葉だけで抽象的な内容を理解する力が必要です。
これがアカデミックレベルの英語力であり、英会話がどれだけ流暢でも、自動的には育たない力です。
「英検3級までは順調だったのに、準2級の長文で急に止まった」という話をよく聞きますが、これはまさに、会話レベルとアカデミックレベルの段差が数字に表れた瞬間だと言えます。
日本語で9歳の壁を越える鍵が読書だったように、英語でこの段差を越える鍵も、読書なのです。
学習言語(アカデミック言語)はなぜ読書でしか育たないのか

「アニメや動画をたくさん見ていれば、語彙も増えるのでは?」と思われるかもしれません。
たしかに、聞いてわかる言葉は増えます。
ただし、話し言葉と書き言葉では、出会える語彙の質が違います。
会話やアニメで使われる言葉は、使用頻度の高い基本語彙に偏っています。
日常のやりとりは、実はかなり少ない語彙数で成立してしまうのです。
一方、学習に必要な語彙(抽象概念を表す言葉、教科の内容を支える言葉、書き言葉特有の表現)は、会話の中にはほとんど登場しません。
それらが十分な量で存在する場所は、本の中だけです。
つまり、会話や動画をどれだけ積み重ねても届かない語彙の領域があり、そこへ届く手段が読書だということです。
さらに読書には、語彙以外の効果もあります。
- 文の構造を目で確認しながら理解する経験
- 段落を追って論理をつかむ経験
- 自分のペースで立ち止まって考える経験
これらはすべて、「言葉だけで抽象的な内容を理解する」というアカデミックレベルの中核の力を、直接鍛える営みです。
早くて小3、4から|条件は「英会話レベルの土台」があること

では、いつからアカデミックレベルを目指せるのでしょうか。
私は、早くて小学3、4年生からだと考えています。
ただし条件があります。
英会話レベルの土台(聞いてわかる、簡単なやりとりができる能力)が、すでにあることです。
英語教育の世界では、読む力の発達を「learning to read(読むことを学ぶ)」から「reading to learn(読んで学ぶ)」への移行として説明します。
文字と音をつなげて読めるようになる段階が前者(おうち英語フェーズ3で育てる力)、読むことを道具にして新しい知識を得る段階が後者(おうち英語フェーズ4で育てる力)です。
「読んで学ぶ」段階に入れるのは、聞いてわかる言葉の貯金がある子です。
知らない言葉だらけの本を読んでも、学びにはなりません。
だからこそ、幼児期からのおうち英語で耳と口の土台を作ってきたお子さんは、小3、4というタイミングで、ちょうどこの扉の前に立つことになります。
ここで、以前の記事との関係を一言だけ整理させてください。
多読は続かなくてもいい、波でいいと書いたのは、幼児期〜低学年の「読むことを学ぶ」時期の話です。
この時期の多読は選択肢の1つで、波があって構いません。
一方、小3、4以降にアカデミックレベルを目指すなら、読書は選択肢ではなく、必須の道具に変わります。
この段階になったら、私は日常的に読書をすべきだと考えます。
段階が変われば、読書の意味も変わるのです。
英会話力の土台がまだない子は?|順序は同じ、でも近道がある

「うちは小4だけど、英会話レベルすらまだ……」というご家庭もあると思います。
というより、検索でこの記事にたどり着いた方の多くが、そうかもしれません。
結論から言うと、順序は飛ばせません。
実年齢が何歳であっても、英語の学びは「英語年齢ゼロ」から始まります。
読解ドリルや文法問題から入りたくなるのですが、聞いてわかる英語の土台がないまま読みに進むのは、順序が逆です。
まずは音声中心の取り組みで、耳を育てるところからです。
▷ おうち英語フェーズ1|聞いて分かることばを増やす(歌・絵本・動画)
ただし、悲観する必要はまったくありません。
小3、4以降に始める子には、幼児にはない2つの追い風があるからです。
1つは、認知の成熟です。
考える力そのものが育っているので、同じ土台作りでも幼児よりずっと速く進みます。
もう1つは、日本語の読書力です。
日本語で「読んで学ぶ」経験を積んでいる子は、読書の構え(文章から意味を取り出し、立ち止まって考える力)がすでに母語で完成しています。
言語の力には言語間で転移する部分があり、母語で育てた読む力は、英語の土台ができたとき、そのまま英語の読みを支えてくれます。
つまり、遅れているのではなく、順序が同じなだけ。
そして、日本語の読書習慣は英語のためにもなる最大の投資です。
英語を焦る前に、まず日本語の本をたっぷり読める子にしておくことは大切です。
遠回りに見えて、これが一番の近道だと私は考えています。
わが家の場合|小3で「自分から読む」が始まった

わが家の息子は、幼児期からおうち英語を続けてきましたが、読書に関しては波だらけでした。
親の私が頑張っては息切れする、その繰り返しです。
それでも、聞いてわかる英語の土台だけは、アニメや動画で細く長く育ち続けていました。
そして小学3年生になった今、息子はやっと、自分から本を読もうとするようになりました。
「読むことを学ぶ」時期を波を打ちながら通り抜けて、「読んで学ぶ」段階の入り口に立ったところです。
ここから先が、アカデミックレベルへの本番だと思っています。
会話ができることに安心して読書を手放してしまえば、英語力はここで頭打ちになる。
自然にこれ以上の英語力は伸びない、この部分には確信があります。
逆に、この時期からの読書が積み上がっていけば、英語で考え、英語で学べる力へつながっていく。
息子と一緒に、その途中を歩いているところです。
会話レベルからアカデミックレベルへ|家庭でできること

最後に、この段差を越えていくために家庭でできることをまとめます。
読み物のレベルを少しずつ上げていく
いきなり難しい本ではなく、今すらすら読めるレベルから半歩ずつ。
絵本から初級リーダー、そしてNate the Grate、Magic Tree Houseのような章立ての本へ。

読み物のレベルをどう上げていくかは、5つの手順に分けた地図の記事にまとめています。
アカデミックレベルへの読書は、手順4「聞き読み」と手順5「自力読み」が入り口になります。
▷ 英語多読の進め方ロードマップ|読み始めからチャプターブックまで5つの手順
物語で読む体力をつけた先に、ノンフィクションや知識の本が待っています。
日本語の読書を軽視しない
前述の通り、日本語で育てた読む力は英語に転移します。
英語の本を読ませたい気持ちが先に立ちがちですが、日本語の読書時間を削って英語に回すのは本末転倒です。
両方の言語で「本を読む子」であることが、最終的に一番遠くまで行けます。
英検の長文を「読書量の指標」として使う
英検は目的ではなく、ものさしとして使えます。
準2級以上の長文が読めるかどうかは、アカデミックレベルへの移行が進んでいるかを映す鏡です。
長文で止まったら、対策問題集ではなく、読書量に立ち返るのが本筋です。
「話せるのに読めない」状態を放置しない
会話が達者なお子さんほど、読みの遅れが見えにくくなります。
話せることと読めることは別の力です。
読みの立ち上げ方は英語が話せるけど読めない子|会話の先へ進む「読む力」の育て方で詳しくお話ししています。
英語の「9歳の壁」についてよくある質問

Q. 英会話を続けていれば、いつか自然に読めるようになりますか?
聞く・話す力は育ちますが、読む力は自然には育ちません。
文字と音のつながりを学び、実際に読む経験を積むことで初めて育つ力です。
会話が流暢なお子さんほど読みの遅れが見えにくいので、意識的に読書への橋をかけてあげる必要があります。
具体的な進め方はどうしたら子どもが英語を読めるようになりますか?をご覧ください。
Q. では、英会話教室やオンライン英会話は無駄なのでしょうか?
無駄ではありません。
この記事でお話しした通り、アカデミックレベルへ進む条件は「英会話レベルの土台」があることです。
英会話はその土台を作る大切な手段の1つです。
問題なのは英会話そのものではなく、「会話ができればゴール」と考えて、その先の読書に進まないことです。
英会話を続けているのに効果を感じられない場合の見極め方は、オンライン英会話は子供に効果なし?話せてるように見えるが、落とし穴で詳しく解説しています。
Q. 何から読ませればいいですか?
今のお子さんの英語力より「少しやさしいかな」と感じるレベルからです。読み始めならFirst Little ReadersやORTのような段階別リーダー、読み慣れてきたら章立ての本へ。わが家で読んできた本は読書記録にまとめています。
Q. 日本語の読書と英語の読書、どちらを優先すべきですか?
迷ったら日本語です。
母語で育てた「読んで考える力」は英語に転移しますが、逆に日本語の読書力が弱いまま英語だけ読ませても、アカデミックレベルには届きません。
理想は両方ですが、日本語の読書時間を削って英語に回すことだけは避けてください。
Q. もう高学年(または中学生)ですが、間に合いますか?
間に合います。
この記事の「早くて小3、4から」は下限の目安であって、締め切りではありません。
年齢が上がるほど認知の力と日本語の読書力という追い風は強くなるので、耳の土台作りさえ丁寧にやれば、むしろ移行は速いくらいです。
始める時期より、順序を守ることの方がずっと大切です。
まとめ|英会話は入り口、その先を決めるのは読書

英会話ができることは、素晴らしい入り口です。
けれども、それはゴールではありません。
日本語に9歳の壁があるように、英語にも、会話レベルとアカデミックレベルの間に壁があります。
そしてその壁を越える手段は、日本語と同じく、読書です。
早くて小3、4から。英会話レベルの土台がある子は読書へ、まだの子はまず耳の土台から。
順序は同じで、焦る必要はありません。
お子さんの英語を「話せる」で終わらせず、「英語で学べる」ところまで連れて行ってあげられるのは、長い時間軸で伴走できる家庭だけでしょう。
🐹 はむ先生のおうち英語相談室(Noteメンバーシップ)
「うちの子の場合はどうすれば?」に、SLA研究×8年の実体験からお答えする質問箱です(匿名OK)。多読アプリへの本の追加リクエストも受付中。
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